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大阪高等裁判所 昭和42年(く)46号 決定 1967年8月04日

少年 D・M(昭二四・三・四生)

主文

原決定を取消す。

本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は少年作成の抗告申立書記載のとおりであつて、要するに原決定は処分が著しく不当であるからその取消を求めるというのである。

先ず職権をもつて調査するのに、原決定はいずれも審判開始決定のあつた原裁判所昭和四〇年少第二三二八号窃盗保護事件および原裁判所昭和四二年少第八四一号暴力行為等処罰に関する法律違反、外国人登録法違反、窃盗保護事件を併合して審判したうえ、少年を特別少年院に送致する旨の保護処分の決定を言い渡したこと、したがつて本件で審判の対象となつた犯罪事実は右昭和四〇年少第二三二八号の少年保護事件記録中の司法警察員作成の昭和四〇年一二月一八日附少年事件送致書および同月二三日附追送致書中犯罪事実欄記載の少年にかかる昭和四〇年一一月○○日尼崎市内における背広上下一着外三点、同月△△日頃同市内における自転車一台、同年一二月○日頃同市内における現金三〇〇円およびエロ写真九枚、同日大阪市内における自転車一台の各窃盗の事実と右昭和四二年少第八四一号の少年保護事件記録中の司法警察員作成の昭和四二年五月二日附送致書および同月一〇日附少年事件送致書中の犯罪事実欄記載の少年(別名M・I)にかかる昭和四二年五月○日東京都における共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律違反)、同年四月○○日Aと共謀のうえの群馬県下におけるカメラ外二点の窃盗、同年五月△日東京都における外国人登録証明書不携帯の各事実であることは右各保護事件記録に徴し明らかである。ところで、少年審判規則三六条によれば、罪を犯した少年の事件について保護処分の決定をするには、罪となるべき事実およびその事実に適用すべき法令を示さなければならないと規定されているが、右規定は少年法四六条が罪を犯した少年に対し同法二四条一項の保護処分がなされたときは、審判を経た事件について、刑事訴追をし、または家庭裁判所の審判に付することはできないと規定し、犯罪少年に対する保護処分に一事不再理の効力を認めていることと対応するものであり、右少年法四六条にいう「審判を経た事件」とは保護処分の決定書に罪となるべき事実として記載された犯罪事実のみをいうものと解せられる。(昭和三六年九月二〇日最高裁判所第二小法廷決定参照)したがつて犯罪少年に対する保護処分の決定書には罪となるべき事実を特定して明記し、保護処分の効力の及ぶ範囲を明確にすべきものであり、審判の対象となつた犯罪事実が数個ある場合には認定した犯罪事実全部を記載すべきものであつて、その一部につき罪とならないとか、犯罪の証明がないという理由で不処分決定をして特にこれを除外する場合のほかは一部だけを記載することは許されないものというべきである。ところが、原決定書をみると、その理由中に罪となるべき事実として別冊少年調査記録中の本件非行事実を引用すると記載されているので、本件少年調査記録をみると、前記昭和四二年少第八四一号の少年保護事件記録中の司法警察員作成の送致書および少年事件送致書中の犯罪事実欄の分の複写が綴られているから、この複写に記載されている少年にかかるM・I名義の昭和四二年五月○日の共同暴行、Aと共謀の同年四月○○日の窃盗、同年五月△日の外国人登録証明書不携帯の各犯罪事実が引用されているものと認められるが、前記昭和四〇年少第二三二八号の四件の窃盗については引用されたとみられる犯罪事実を記載したものが存しない。(もつとも、右少年調査記録中の在院成績照会書中に本件非行事実の概要として少年は四〇年一一月○○日午後一時三〇分頃から同日午後六時頃までの間尼崎市○○○○-○○電話工事飯場内より○井○次所有の男物背広他三点を窃取したものとの記載があるから、この分をも原決定が引用しているとみられないことはないが、これを引用しているものとしても、他の三件の窃盗については犯罪事実を記載したものはない。)したがつて原決定は罪となるべき事実として本件で審判の対象となつた犯罪事実の一部だけを記載し、他の部分を記載していないものと認めざるを得ない。そして原決定書および前記少年保護事件各記録を精査しても本件の審判の対象になつた犯罪事実中決定書に罪となるべき事実として掲げなかつた部分につき特に罪とならないとか、犯罪の証明がないという理由で不処分決定をしたものとみられる形跡は認められず、右部分について犯罪の成立を疑う事情はないのである。(なお少年保護事件記録および少年調査記録によれば少年が右決定書に掲げられなかつた分の前記昭和四〇年少第二三二八号窃盗保護事件について試験観察中に決定書に記載された犯罪をした点が重視されて本件保護処分の言渡がなされた経過が認められる。)してみると、原決定には少年審判規則三六条に違反し、この違反は決定に影響を及ぼす法令違反であると認められるから、原決定は論旨に対する判断をまつまでもなく取消を免れない。

よつて少年の抗告趣意に対する判断を省略し、少年法三三条二項により原決定を取消し、本件を原裁判所である神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻すこととして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠山成伸 裁判官 柳田俊雄 裁判官 八木直道)

参考

受差戻家裁決定(神戸家裁尼崎支 昭四二(少)一三四八号、同一三九四号 昭四二・八・一七決定)

主文

少年を特別少年院に送致する。

当庁が昭和三九年九月一二日少年を保護処分に付する旨の決定はこれを取消す。

理由

非行事実

少年は

一、(1) 昭和四〇年一一月○○日尼崎市○○○○×丁目○○番地○昌○信建設株式会社の○○飯場において、○中○次所有の男物背広上下一着鰐皮パンド二本、ズボン、およびセーター各一枚を窃取し、

(2) 同月△△日同市○○○○××番地○上○雄方前路上において、そこに置いてあつた高橋幸夫所有の中古自転車一台を窃取し、

(3) 同年一二月○日同市○○△○×丁目○番地○田建設株式会社の作業現場事務所更衣室において、○田○治の背広のポケットから同人所有の現金三〇〇円およびエロ写真九枚を窃取し、

(4) 同日大阪市西淀川区○○○○×丁目○○番地の路上において、そこに置いてあつた○上○二所有の中古自転車一台を窃取し、

(5) 昭和四二年三月○日、尼崎市○○△△○番地○山こと○丁○方において、同人所有の現金二万二、〇〇〇円および印鑑三本を窃取し、

(6) A(当一八年)と共謀の上、同年四月○○日群馬県利根郡○○町大字○○○××番地○山○雄方において、同人所有のカメラ二台、電蓄一台および現金二〇〇円を窃取し、

二、B(当二〇年)外二名と共謀の上、同年五月○日(午前一時三〇分頃)東京都新宿区○○○町○番地の路上において、通行中の○塚○佑(当二七年)と肩が触れ合つたことに因縁をつけ「お前いい根性している。事務所へ連れていつて焼を入れよう」などと怒号しながら多数の威力を示して同人の襟首を掴んで左右の大腿骨部を足で蹴つたり、頸部等を殴打する等の暴行を加えた、

三、外国人登録証明書の交付を受けているものであるが、同月△日同都新宿区○○×丁目○○番地の路上において、外国人登録証明書を携帯していなかつた

ものである。

適条

上記一の各事実は刑法二三五条((6)の事実についてさらに同法六〇条)に、二の事実には暴力行為等処罰に関する法律一条に三の事実は外国人登録法一三条一項一八条に該当する。

処分の理由

少年は、中等少年院送致決定を受け加古川少年院において矯正教育を受けた後の非行により昭和四一年八月一五日神戸家庭裁判所尼崎支部において、上記一(1)の事実につき試験観察決定を受け補導を委託されているうちに委託先を逃走して、その余の非行に及び昭和四二年六月六日同庁において特別少年院送致決定を受けたが抗告の申立をなした。そこで大阪高等裁判所において原決定の非行事実のうちに上記一(6)、二、三が摘示してあるのみでその余の事実を摘示していないので原決定は少年審判規則三六条に違反し、この違反は決定に影響を及ぼす法令違反であることを理由に原決定は破毀された。そこで当裁判所は少年に対し特別少年院送致の保護処分決定を為すのであるが、上記高等裁判所の判断は、この点については当裁判所を拘束しないものと解するのが相当である。

少年の要保護性は調査記録に記載したとおりである。少年の窃盗の手段はきわめて巧妙で悪質である。少年は父がすでに死亡しており母には前科があつてその保護能力は全くないので少年が再犯に陥る蓋然性が高いものと考えられる。少年は矯正教育において処遇は容易であるものの更生が困難と危惧される点があるが、当審判廷において少年は自分から特別少年院へ行く旨述べて更生を誓つた。

少年には厳格な規律の下に矯正教育を施す必要あるものと考える。

よつて、少年法二四条一項三号、同法二七条二項、少年審判規則三七条一項に基いて主文のとおり決定する。

(裁判官 市原忠厚)

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